"birkahve" ビルカーベという名のお店のおはなし



 




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bir:1

kahve:コーヒー

トルコ語で「一杯のコーヒー」

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2001年冬。トルコへ行った。

そもそも何故トルコに行こうと思ったのか、決定的な理由は無かった。

ただなんとなく、アジアの果て、という雰囲気に憧れていたし

アジアとも違うヨーロッパとも違う、独特な香りがしそうなトルコには興味があった。

当時良くミニシアターで上映されていた、イラン映画の影響から

アッバスキアロスタミ的な情景を見てみたいという目論見もあった。

(イランのお隣なので…なんと短絡的)

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アジアとヨーロッパ、ふたつの大陸の間にあるトルコという国は

西洋と東洋の入り混じる、やはり、独特な街だった。

バザールの混沌、色とりどりのスカーフを頭に巻いた女の人達。

アラビアンナイトさながらのジャミィのある風景に、コーランが響き渡る。

初めて見る風景や音に心が躍った。

トルコは、何といっても親日家が多いので

どこに行ってもチャイのおもてなしを受ける。

それも砂糖たっぷりのエルマチャイ(リンゴの紅茶)だ。

きのこのような奇岩で有名なカッパドキアへサイクリングしたり

エフェスの神殿で小学校の同級生に偶然出会ったり

イズミルという街においては、トルコ人のご家庭に泊まらせてもらったり

サフランボルという街では、念願の映画の風景を見ることができた。

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そんな約1ヶ月の旅も終盤、再びイスタンブールに戻ってきたとき

甘いチャイでもなく、濃いトルココーヒーでもなく

「いつもの」コーヒーが飲みたいと思ってふと入ったカフェ。

そのカフェの名は「birkahve」といった。

ドネル・ケバブとスパイスの香りのたちこめる不思議な街で

そのカフェはなんとも自然に、飄々と存在していた。

小さな通りの2階にあるそのカフェは、青い窓辺が素敵だった。


音楽がかかっていたかも忘れてしまったけど

静かで落ち着くカフェだった記憶がある。

店員さんもスマート。何度か通って顔見知りになった。

ケーキもコーヒーも、食べ慣れた感じの味でほっとした。
 

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未知なる国にいながらにして感じる、この懐かしさや親しみやすさは?

混沌の中にあって、そこに溶け込みながらも、すっと静かに存在している。

ゆるぎない何かをこのカフェに感じた。

自分が何かしらのお店をするなら、この名前がいいなと思っていた。



 

そして今思う。

いろいろな国の、なんだかよく分からないけど素敵ながらくたを集めた雑貨屋に

ぴったりの名前だと。

生まれも育ちも違う雑貨たちが、ちょうどブレンドコーヒーのように

なんともいえない調和を醸し出すことを願って。

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世界は広いというけれど、世界中に眠る古くて味のあるものをぎゅっと集めたら

なんだかひとつの世界になった気がする。 
 

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2011年 秋 birkahve店主

* 写真はむかしイスタンブールにあったカフェ・birkahve 今はもうない